男と女
通勤の車の中でFMの音楽番組でハマショウの曲が流れてきた。今では少し懐かしいといえる方にはいってきたのかなと思いつつ聞いていたが、ハマショウといえば別のタレント
もいたなあ、と思い出した。浜田省吾と浜田翔子、こちらはまあバラドル、モデル系か、しかし「ご」、と「こ」濁点一つで男と女が変わるか?しかし男と女は実際にはこれぐらいの差しかないのか知れない。
こんなことを考えたのも、昨日子宮がなく、ホルモン剤投与中の患者さんがきていたからであった。体型は女性、しかも美人なのだが、性染色体はXY(男女を決める遺伝子のあ
る性染色体ではXYが男、XXが女である)で、性腺には精巣組織があったらしい。アンド
ロゲン不応症、昔は睾丸女性化症候群といわれていた。体には男性ホルモンがあるのだが、体の細胞に男性ホルモンのレセプターが欠損している。したがって、男性ホルモンの作用がなく、体型が男性にはならない。男性ホルモンが女性ホルモンに転換することもあるがそれでも充分ではなく、女性として生活していくため、女性ホルモンの投与が必要なのである。性というのは固定されているものではない。染色体の性、性腺の性、表現型としての体つきの性、すべてに異なるケースがある。不一致のケースではほとんど女性として扱うことになっている。というのは、社会生活において女性としての方が生きていきやすいからと説明されている。
やっぱり男の方が生きにくい世の中なんだと少しひがんだ考え方をしていたら、初診の患者さん、外見はほとんど女性だが、体が大きく、カルテを見たら名前は男性という人がやってきた。通称は女性の名前となっている。これはまたややこしい。なにか続くなあと
思っていたら、その患者さん、紹介状をとりだした。大阪の某メンタルクリニックよりで病名は「性同一性障害」とある。染色体、性腺、体つきはすべて男性だが、心は女“そうか、心の性というのもあるな!"神のいたずらか?確か脳の構造も女性の方にシフトして
いるといわれている。その患者さんの希望は女性ホルモンの注射であった。健康保険で可能かどうかという問題はあるのではあるが、同性愛とは異なり、性同一性障害は今ではれっきとした病気として認知されている。治療を希望されたら、対応するのが本筋であろうと考えて、承諾した。この診療所で初めてのケースなので、注射薬を取り寄せてから、次回よりと注射となった。気の毒な病気なので注射の値段も負担にならないようにした。そして、1週間後、アッと驚いたことに“名前は男性"のカルテがずらっと並んでしまった。これには参って、これ以上は限界があるのでどうしてもという人以外は以前のかかりつけ医にいってもらうことにした。世の中にはまだ受け入れられにくい人々なのでこういうことになるのだろうが、男と女の間にある「濁点」はやっぱりかなり大きい(゛)なのだ。
(ある日のDr,Qの診察室日記より)
※これはフィクションです。