サスペンス
Kの話:汗びっしょりとなって、夜中に目が覚めた。今日はあの腹痛は来なかったが、いつやってくるのかと恐怖で怯えている自分を自覚していた。そう、これは数年前から下腹部の痛みが出るようになった。はじめのころは数か月に1回ぐらいで、しばらくじっとし
ていれば治まっていた。一応、病院を受診して、血液検査などを受けたが別に異常はなかった。鎮痛剤を処方されたが、効いた時もあれば、効かない時もあった。しかし、しだいに、痛む間隔は短くなり、痛みの程度も強くなってきた。そして、ある冬の寒い日、腹痛のあまり、駅で倒れて、救急車で病院に搬送されてしまった。覚悟して、徹底的な検査を受けた。エコー、MRI、CT、内視鏡など行ない、婦人科も受診したが、やはり、異常は見つからなかった。心の病ということで心療内科に紹介されそうになり、退院した。誰もこの腹痛をわかってくれない。医療不信に陥ったが、腹痛はやはり不定期にやってきて、苦しむことになった。そしてドクターショッピングを行うようになった。
Dの話:さて、この患者さんの痛みの原因は何なのだろう。生埋痛ということで受診され たが、この話を聞かされて困ってしまった。生理痛ならピルでよい薬があるが、この腹痛はピルでは治りそうもない。もう徹底的にいろいろな検査を受けているので、病院で検査してもらってというわけにもいかない。一応ピルを処方して、腹痛の件は痛みがおこったときに診させてくださいということになった。世の中には、ムズムズ足症候群とか、繊維筋痛症とかわけのわからない症状を出す病気?が多くある。まあその類かと思いつつ、家でテレビを見ているとかなり古い時代劇をやっていた。街道をさっそうと歩いてくる若侍、と、道端に若い腰元と思われる女性がうずくまっている。声をかける若侍、“どうなされたお女中"“持病の癪が"と女性がお腹を押さえて答える。見ていたこちらの手から盃が落ちた。癪か!!『癪=疝気症候群-寒冷によって増悪する症候群、主に腹痛をきたすが、原因不明な場合が多い』テレビでは医者のもとにかつぎ込まれたお女中が薬を飲んでいる。“楽になりました" (そんなに早く効く薬があるんか?)疝気症候群のファーストチョイスは当帰四逆加呉茱萸生姜湯だが、次に来院したら、これを服用してもらうことにした。果たして、当帰四逆加呉茱萸生姜湯を服用して、数カ月間、腹痛は起こらなくなった。
Kの内心:有効な薬があるのなら、もっと早く出してもらっていたら、こんなに苦しまな かったのに、いったい、今までの検査つてなんだったのだろう!医者ってえらそうにして
いるけど頼りにならないわ。
Dの内心:ようやく、効果のある薬が見つかってよかった、それでもぷりぷりされているけど、なんでだろう?
(ある日のDr,Qの診察室日記より)
※これはフィクションです。