進入禁止
ある日、16歳の女子高生が母親に伴われて診察室にやってきた。体格はりっぱ、足も長くこのごろの女子高生はスタイルがよいものだと思いつつ主訴を聞く。おりものが多いという。"病院にいって、薬をもらったが良くならなし”
黄色くて匂いがあるとのことであった。型どおりの診療で、おりものを顕微鏡で見ると、すばやく動くものがいる。
16歳の彼女のそれを見せて、“動くものがいるでしょう、よくみてごらん、毛が3本生えているだろう。 これはトリコモナスといって、これがおりものの原因で性行為感染症のーつ"と話していると、
“キモカワイイ"
何がかわいいのだろう?
“トリコモナスってかわいい名前、ベットにしたい"
何を考えているのだろう。母親と顔をみあわせた。
“人には自慢できるようなものではないよ”といささかげんなりとして、薬を処方した。
数週間して、再び、彼女がやってきた。おりものは良くなっているが、今度は生理がこないという。妊娠テストは陽性だった。診断結果は妊娠6週、超音波検査で胎児心拍確認で きた。母親は相手とも話し合います。と言って帰っていった。
2週間後、母子手帳をもって妊婦健診、検査を受けに来た。母親に話を聞くと、“相手とは連絡がとれず、それでも産むといって聞かないのです。まだ話し合います"と疲れた顔で話して、帰っていった。
1週間後、出血があると来院、超音波検査を行うと、胎嚢変形、胎児心拍は消失していた。これは残念ながら不全流産という結末になった。母親は明らかにほっとしていたが、彼女もあまり悲しそうな顔ではなかった。流産処置の際、片腕に血圧計、もう片方に点滴ルートをとったが、左腕に新しくはないリストカットの痕がいくつも見えた。この年頃の内心の葛藤は私にはまるでわからないなあ!
その翌日の診祭に妊娠初期検査の結果が返っていた。その中の、子宮頚がん検診の結果が、前がん病変LSlL(従来の表記ではクラスIIIDa) であった。妊娠でなければ(妊娠初期検査に子宮頚がん検診も含まれていて補助がでている)、子宮がん検診は行わない年齢であるが、まさかと思われる結果である。これについても精密検査が必要である。母親は再び、顔が青くなったが、
“わたし、子宮がん?"
“いや、がんになる手前の段階、まだがんではないよ"
彼女は事態がよくわかっていないようであった。今まだ、手術の後なのでおちついてから、精密検査をすることにした。数週間してからの精密検査の結果はCIN2(中等度異形成)子宮がんのCIN管理指針では次はHPVハイリスクウイルスのタイピンク。検査となっている。この検査の結果でもHPV33型陽性となった。かなりの要注意であるが、3か月後に再検となった。
さて、トリコモナス感染も、妊娠も、子宮頭部前癌病変も、共通するものは、すべて性行為よって引き起こされるということである。だから気をつけてというと、
“いつからHできる?”
これには、がっくりときた。こうなれば、説教オジサンに変身するか、と思ったが、“選挙権が持てるまで、だめ、あなたのお母さんが、あそこに進入禁止の7 ークはってお いてくれと言われたのではっておいた。"
となりで母親が吹き出していた。
(ある日のDr,Qの診察室日記より) ※これはフィクションです。
←前のページへ | コラムトップ | 次のページへ→ |