男と女の更年期
雨がしとしと降り続く6月のある日、うっとうしい天気の中、さえない表情の患者さんがやってきた。更年期障害という主訴、気分が落ち込み、食欲なく、不眠という訴え、これはまあ、うつの症状取り揃えているが、この症状が出だしたのは子供が3人とも家を出て、やれやれと思ったが、何か空虚感が残ったころからで、意欲を失って、何事にもやる気がおきなくなった。そして、同居人(ふつうは主人、夫、配偶者、旦那、亭主などと呼ぶがこの人はそういった呼び方はしなかった。)が定年で家にいるようになった。それ以来、症状が悪化したという。こういった症状にはいろいろな呼び方がある。空の巣症候群、荷降ろし症候群、主人在宅ストレス症候群、濡れ落ち葉などである。明らかに、自分の存在意義の喪失に加えて、自分の存在領域への侵入者に対するストレスである。たぶん、この患者さんのご主人は仕事人間で家庭を顧みることなく、子供の世話もほとんど奥さん任せだったのだろう。そのことを患者さんに確認すると、全くその通りで、時に同居人を殺したくなるとおだやかならぬことまで口走る始末である。
薬物治療よりも心理的ストレスを発散させることが有効な治療だろうとアメリカの某大学教授が提唱した10年早く楽になれる10か条の方法の話をした。
亭主を早死にさせる10カ条 profJean Mayar,1970
気楽な未亡人になりたければ・・・
1. 夫を肥らせましょう。25kg肥らせれば10年早く自由になれます。
2. 酒をたくさん飲ませましょう。強い酒とおつまみを大量に。
3. 夫をいつも座らせておきましょう。散歩よりテレビがお奨め。水泳やテニスなどはダメです。
4. 霜降り肉や飽和脂肪酸をたっぷり含んだ食事をいっぱいあげましょう。毎日卵を2~3 個食べさせれば、コレステロールが上がること必至です。
5. 塩分の多い食べ物に慣れさせましょう。血圧をもっと上げてやればよいのです。
6. コーヒーをがぶがぶ飲ませましょう。濃いコーヒーは代謝を乱し、不眠症にしてくれます。
7. タバコをすすめましょう。
8. 夜ふかしをさせましょう。深夜番組で睡眠不足にして、客を招いたり訪問したりして、過労させましょう。
9. 休暇や旅行はダメです。
10. いつも文句をいっていじめましょう。お金と子どもの話題がうってつけ。夫はますます酒を飲み、睡眠不足になり、血圧が高くなります。
最近の研究ではコーヒーは健康によいことが示されている。コーヒーポリフェノールが多く含まれてる。お肌にも良いという説もある。
けっこう楽しんで聞いてくれたようで、すこし表情が明るくなって帰っていった。
しばらくして、この患者さんが風邪気味でとやってきたが、打って変わって風邪なのに元気であった。話を聞くと“例の同居人が友人たちと写真を撮りに北海道に行っていて1週 間ぐらい家にいないので、はねが伸ばせたんです。友達とランチに行って、冷房が効きすぎていたので、風邪ひきました。”
"あははは”であった。「亭主、元気で留守がよい」はいまも生きている。同居人がいなくなれば元気ということは新型うつ、いや超新型うつか?(最近、うつの世界では新型うつが話題になっている。新型うつは若い世代にみられ、職場ではうつ症状が強いが、家庭とかその他の場所では元気であるという)
数日後、再びその患者さんがやってきたが、どうしてかご主人が一緒であった。“北海道から帰ってきて、食欲もなくて、主人がなにか、元気がないんです。いい漢方でもありませんか?"今回は同居人ではなく主人である。それにご主人を心配している。ん!ご主人に話を聞くと、“北海道ですごくきれいな夕焼けを見たのです。海に太陽が沈むのを見ていると終わる前の一瞬の輝きなんだと何か無性にむなしくなって"と言った。ん!これは?
“ご主人、この頃あちらの方も自信が持てなくなってませんか?"
“ど、どうしてそれがわかるんですか?"
ははあ、これはたそがれ(症候群)だ。男の更年期症状である。これはその 専門科に紹介するとして、奥さんは保護の対象ができて空の巣症候群が解消されたのだろうか?男と女は不可解である。
(ある日のDr,Qの診察室日記より) ※これはフィクションです。
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